平成10年、杉並区内で発生した刑法犯事件は6800件、14年には1万1100件へとほぼ倍増。特に空き巣被害(2107件)は深刻で、都内では世田谷区に次ぐワースト2という不名誉な成績を記録した。
そこで私は、平成15年の課題は安全と安心の確保であると考え、いくつかの治安対策を実施してきた。その結果、10月時点で都全体の空き巣被害件数が前年比2318件減であったのに対し、杉並区は471件減と、都全体の減少分の5分の1を占める驚異的な成果を収める事ができたのである。各方面から"杉並マジック"と注目されるゆえんである。
杉並区が取り組んだ治安対策には、大きく分けて、外科的対策と内科的対策の二つがある。
まず外科的対策だが、その代表は安全パトロール隊の創設だ。安全パトロール隊はいわば杉並版の警察だが、きちんと制服を着て三人一組で行動する。警察と緊密な連携をとりながら、警察のパトロールで手薄になるエリアを徒歩によるパトロールでフォローする。また、安全美化条例が制定され、路上禁煙地区が定められたのを受けて、歩きタバコや吸い殻のポイ捨てなどの注意、あるいは放置自転車やステ看板など町を汚す原因となるものへの注意喚起もあわせて行っている。
こうした外科的対策で私が念頭に置いたのは、「割れ窓理論」である。一枚の窓ガラスが割られたのを放置しておくと、二枚目、三枚目が割られ、やがて町には不良が蝟集するようになって犯罪の温床と化す。したがって、最初の一枚が割られたときに、それを即座に直してしまうことが犯罪防止上最も重要だというのが、この理論の趣旨である。
そこで私は、短期集中的に外科的対策を打って町を美化し、犯罪の温床となる環境を一掃することが、治安の回復に効果的だと考えたのである。
一方、より本質的な内科的対策としては、区民の間から自然発生的に生まれてきた活動の支援がある。その一例が、馬橋地区の「ご近所つきあい広目隊」だ。
馬橋地区は区内でも最も空き巣被害の多い地区だったが、地元有志が自主的にパトロール隊を結成して放置自転車やステ看板などを処分し、近所同士の挨拶を励行した結果、14年1〜5月に52件あった同地区の犯罪件数が、15年同期は16件へと激減。6月にはついに月間犯罪件数ゼロを達成したのである。区はこうした組織の立ち上げを資金的に援助している。
警察の調査によると、空き巣はゴミのポイ捨てや放置自転車が多い地区を好むそうだが、それらが象徴しているのは、地域コミュニティーの崩壊である。コミュニティーが崩壊した地域は、隣近所の目がないから仕事がやりやすいのだ。
これを裏返して考えると、空き巣たちが最も困るのは、地域コミュニティーの再生ということになる。隣近所の目が復活するからである。転入・転出の激しい都市部では、町会などの伝統的、固定的組織にそれを期待するのは難しくなりつつある。今後、地域コミュニティーの再生に重要な役割を果たすのは、馬橋地区の例に見るような、有志による問題解決型の組織であろう。
行政にすべてを委ねるのではなく、自主性を持った組織が地域の問題を自らの手で解決しようと試みるとき、地域の治安は驚異的なスピードで回復していく。それが難しいという方には、休日に15分でもいいから近所を散歩し、街に目を向けてもらいたい。些細なことの積み重ねが治安維持の支えとなるからだ。
(構成・山田清機)
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