櫻井よしこさん、清水勉さんも転居したいという杉並区。「住基プライバシー条例」(杉並区住民基本台帳に係わる個人情報の保護に関する条例)を制定し、「区としてできる最大限の力で区民のプライバシーを守ります」という山田宏区長にお話を伺いました。
○最近まで、この法律のことは知りませんでした。稼働するのはもうじきですね。
山田:そう、住民の個人情報の管理のシステムが大きく変わります。充分に論議を交わして、将来像をはっきり描きながらメリット、デメリットを明らかにして進めなくてはいけないと思っています。
○知らないうちにというのがいちばん怖いですね。山田さんが「住基プライバシー条例」を制定された理由から教えて下さい。
山田:当時の自治省が「住民基本台帳ネットワークシステム」に入れるのは、名前、住所、生年月日、性別の4つの情報と、国民一人ひとりにつけられる11桁の住民票コード番号だと説明していました。それが、後で知ることになるのですが、国は、多くの事務に住民票コード番号を使おうとしていたのです。
共通番号で個人情報の収集・管理が行われることになれば、個人のプライバシーはだれに利用されるかわからないという危機感を持ちました。
○既に番号制をとっている韓国やアメリカの社会保障番号(ソーシャル・セキュリティ・ナンハー)では何か問題か起きているのでしょうか。
山田:番号制がスタートした国ではIDナンバーがなくては生活できません。ホテル、図書館、レンタルビデオ店でも必ず番号が必要とされます。韓国ではICチップを個人カードに入れるという法案は議会を通っていたのですが、ある殺人事件を契機にあまりにリスクが大きいということで金大中政権になって中止されました。
番号によって個人情報が統一的に集められているということは、逆に言えば個人情報を集中的に得やすくなるということですから、本人になりすますこともできるわけです。ハイジャック事件、テロ事件をおこす犯罪者は組織力、知識、技術を持っています。そのような犯罪者にとってソーシャル・セキュリティ・ナンバーのガードを破り、別の人物になりすますことはとてもたやすいことです。個人に番号をつけることは、本来は本人の確認のためです。しかし、その便利が仇となって犯罪者にとっては情報の集中というありがたい緒果になるのです。
山田宏になりすますことなど容易にできることなのです。
○個人に番号がつくということはプライバシーをさらすことになりかねないですね。
山田:もう番号がなけれぱ社会全体が動かない。銀行の口座も開けないし、福祉の申請もできません。アメリカも韓国も1960年代にスタートしていますが、始まったら引き返せない。そこが良く熟慮しなくてはならないところです。
○これは、とても想像カのいるテーマですね。
山田:そうです。想像力がとても大切です。「エネミー・オブ・アメリカ」という映画では、コンピュータ管理される社会で起こりうる恐怖が描かれています。一緒に、この会の活動をしている斉藤貴男さんの著書「プライバシー・クライシス」(文春新書)にもアメリカのプライバシー侵害の現状が詳しく書かれていますが切実です。コンピュータに入った情報は公開したも同然とハッカーたちは言っていますが、起こりうるリスクを考えること、想像することはとても大切です。
○他の国の情報もありますか?
山田:スウェーデンも番号制があります。PIN(Personal Identification Number)という個人識別番号で納税者番号としても利用しています。スウェーデンからデータ検査院長官が1995年に来日されて講演をされているのですが、「人は個人でなく番号となってしまった。このシステムはスウェーデンの国民にとってプライバシーへの脅威のシンボルになっている。導入は薦めません」とはっきり言っているんですね。ここでもスタートしたら、もう戻れないという実例をしめしてくれています。
コンピュータ社会の便利さはおおいに活用すべきです。ただコンピュータは道具にしかすぎません。
便利な車もアクセルとブレーキがなければ機能を果たさないように、コンピュータ社会も便利さというアクセルだけでなくブレーキの部分、プライバシーの侵害について相当注意をしていかないと暴走してしまいます。
杉並区は自分たちのプライバシーは自分たちのルールで守るという防波堤を築いたうえで電子政府社会に向きあっていこうと思います。
○戦後、便利さぱかりを追求して失ったものも多いですね。
山田:今、イタリアでスローフード協会ができ、世界に広がっています。土地で採れた食材をその地方の伝統的方法で料理してゆっくり食事をしようという趣旨です。手間をかける不便さのなかに、人間が失ってしまった温かさ、ほんとうに大切にするものがあったのではないかということに気づき始めたのですね。コンピュータは便利でも、その社会に入らないアナログ的な生き方の自由も認めるべきです。カードを持たない人をはじき出すような社会であってはならないと思います。 全部を同一化することはとても危険です。すべてが番号で管理される社会が完成して独裁者がでたら、もう終わりです。全員が奴隷になります。
杉並区は電子自治体に向けて進めていきますが、窓口で紙に書いて住民票をとりたいという人の自由も大切にする、人の尊厳を大切にする自治体でありたいと思っています。
● ID力一ド(identification card)身分証明書
● IC(integrated circuit)集積回路
● ソーシャルセキュリティー(Social Security)社会保障
● エネミー・オブ・アメリカ 1998年公開。弁護士ティーン(ウィル スミス)はNSA(米国国家安全保障局)行政官の犯罪が撮影されたビデオテープを偶然に渡されてしまう。最先端の情報技術を駆使し追うNSAに、元情報員のブリル(ジーン・ハックマン)と共に立ち向かう。
「出典:インタビュー ( 国民共通番号制に反対する会 )」
国民共通番号制に反対する会事務局より転載許可を頂いて掲載しております。
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