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第十話  「天国からの請求書 その2」


<成功の要諦は>

 7月7日の投票日に向けての選挙戦は1週間だったが、宣伝カーから見た区民の反応は、雨が多かったせいかほとんど無反応で、「これじゃ、負ける」と日々焦燥感をつのらせていった。

 ところが、投票日まであと二日と迫った金曜日の朝の荻窪駅で、いつものようにたすきをかけて、すっかりかすれてしまった声で「おはようございます」と挨拶を繰り返していると、これまで全く無反応だった通勤者の方々から、「がんばって」とか「入れるよ」とか小さな声で声をかけられるのだ。私の目を見てうなずいて行く人もいた。握手をしてくれる人も出てきた。

 (なに、なに、なに、この変化は!?)

 昨日と違った雰囲気に私は興奮し、そして感動していった。自然にかすれた声の「おはようございます」にも力がはいっていく。

 そして、その朝の通勤者の方々のこうした反応はずっと変わらなかった。しばらくすると興奮と感動で、いつしか私の目は潤んでいた。「おはようございます」の挨拶が、無意識の中でいつのまにか「ありがとうございます」に変わってもいた。

 (ありがとう。ありがとう。皆さん、本当にありがとうございます)

 もう当落などどうでもよかった。ただただ、見知らぬ人たちのあったかい心に感謝感激だった。

 翌日の最終日もこのような反応が続いた。宣伝カーで区内を回っていても、窓から手を振ってくれたり、お店から出てきて握手をしてくれたりで、それまでの無反応な選挙戦のプロローグから興奮と感動と感謝のフィナーレとなった。

 なぜ急に反応がよくなったのかは当時わからなかった。でも今は、選挙というものはそういうものだと痛感している。

 7日の日曜の投票日に即日開票され、私は6議席中5番目で当選し、27歳最年少の都議会議員になった。

 「成功の要諦は成功するまで続けるところにある」

 松下政経塾で毎日唱和する五誓の一節である。私はこの言葉をかみしめていた。

 とその時、当選の喜びに沸き返る選挙事務所の電話が鳴った。

 「候補。松下塾長からお電話です!」




当選が決まった瞬間