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第十一話  「天国からの請求書 その3」


<人の恩は岩に刻め>


 「山田君か、当選おめでとう。ようがんばったな」

 電話からの松下幸之助塾長の声を聞いたとき、涙があふれてきた。ずっと気にかけてくれていたのだ。そして、近々東京でじかにお祝いをとのことだった。

 数日後、私は松下さんに会うために、松下電器東京支社の相談役応接室を訪ねた。そこには、政経塾の同期で同じ都議選に立候補して惜敗した松原仁君(現民主党衆議院議員)も来ていた。

 「山田君、おめでとう。松原君は僅差やったな。初戦でここまでいけば当選したようなもんや。気を落とさんでがんばるんやで(実際、松原君も次回の選挙で見事当選を果たした)」

  と言うと、松下さんは、小さな箱をお祝いににくれた。(中は小判で、表面には「繁栄小判」と裏面には「松下幸之助」と書いてあった。この小判は、いまでも私の宝物である)そして松下さんは、私を見てこう言った。

 「君、これからは謙虚さが一番大切や。若くて偉くなると、謙虚さを失いがちや。『実るほど頭を垂れる稲穂かな』という言葉があるやろ。よう心に刻んどかなあかん。ええか、謙虚やで。わかったか」

 「ええか、謙虚やで」という松下さんの言葉は、妙にずっしりきた。(俺って、そんなに謙虚さがないように見えてたのかな)


 さて当選した翌年の3月、自宅に一通の茶封筒が届いた。差出人は松下幸之助さん。

  (何だろう?)

 開けてみると、一枚の請求書が入っていた。

 『下記ご請求いたします。金50万円也。昭和61年3月15日。松下幸之助』

 選挙直前に「貸しや」と言ってもらった500万円の小切手の返済のための請求書だった。(天国からの請求書その1)

 恥ずかしいことだが、この請求書を見るまでは、私はこの借金のことを全く忘れていた。小切手を渡された後も、「松下さんはああ言っていたけど、きっとこれは全額寄付してくれたんだろう。皆の手前『貸しや』って言ったのかもしれない」などと、誠に都合のいい解釈をしていたような気もする。

 (『人の恩は岩に刻め。自分の恩は砂に書け』とは、昔の人はよく言ったものだ。本当にあの頃の私は自己中心的だった。反省!)

 運良く当時の私は都議会議員になっていたので、なんとかその請求金額をすぐ振り込んだ。





写真:
政経塾の同期で同室の松原仁代議士(現)
拉致問題などで大活躍中