「鉄の女」と呼ばれたサッチャー元首相は、かつて「英国病」といわれたイギリスの長い停滞からイギリスを救った、信念ある偉大な政治家だと思う。
長い英国議会政治の歴史の中で、女性として初めて首相に就任したサッチャーさんは、テレビの記者の「これからあなたをミセス(Mrs.)サッチャーと呼びましょうか?、それともミズ(Ms.)サッチャーと呼びましょうか?」という質問に対し、きっぱり「私はマーガレット・サッチャーです」と答え、Mrs.とMs.を対比させる当時のウーマンリブ運動に軽く肘鉄をくらわせた。
またまだ野党だった保守党の党首に就任してのテレビ討論では、当時の労働党の首相に対し、「あなた方は赤旗に忠誠を誓っているが、私はユニオンジャック(英国国旗)に忠誠を誓っている」と一刀両断。これは今日の日本の、政党や政治家たちにも当てはまる指摘では。
さてそんな「鉄の女」に私がお会いしたのは、1997年ころ。もう政界から引退したサッチャー元首相が来日され、ご縁があって「サッチャー講演会」を企画することになったのだ。会場は東京国際フォーラムで、「あのサッチャーさんを一目見よう」と満席状態であった。
サッチャーさんは、3、4人のSP(シークレット・サービス)の屈強そうな男たちに囲まれて定刻40分前に到着し、そのまま控え室に私が案内した。控え室に入ると、早速サンドウィッチとオレンジジュースを飲みながら打ち合わせを始めた。が、サッチャーさんの次々の質問に答えているうちに、打ち合わせはなかなかはかどらない。
「こりゃ、少し始まりを遅らせるしかないかな」
と思っていたところで、サッチャーさんから、
「山田さん、講演は何時から始めるのですか?」
との質問。
「1時ですが、少し遅らせます」
と私。
「お客さまは、料金を払って参加されていますか?」
「はい・・・」
すると、彼女はすくっと突然立ち上がって、
「さあ、山田さん行きましょう。お客さまを待たせてはいけません」
と言うなり、すたすたと会場に向けひとりで歩いて行くではないか。
「まだ打ち合わせが終わってないのに・・」
と思いながら、私は慌てて彼女の早足について行った。そして講演会場に着くと、サッチャー元首相は舞台の袖で立ったままじっと出番を待っているのであった。
時間厳守とテキパキした行動。「鉄の女」の凄さを垣間みた。
サッチャーさんとの打ち合わせ