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第三話  「松下政経塾〜松下幸之助氏との出会い」




写真:松下政経塾

 
  偶然目にした「Voice」という月刊誌には、「松下政経塾創設趣意書」が発表されていた。そこには、「21世紀の人材養成」への松下幸之助氏の強い思いが、名文で綴られていて、私の心は「松下政経塾」と吉田松陰の「松下村塾」とをダブらせていた。単純といえば単純だった。

 当時の自分も「こんな人物養成機関をつくりたい」と思い描いていただけに、「先を越された」という気持ちと、ほとんど知識のなかった「松下幸之助」という人への興味が募っていったのは自然の勢いだった。

 大学4年に政経塾の入塾試験を受けた。1次試験は常識問題と面接、2次試験は泊まりで英語、論文、討論、体力テスト、そして理事面接だった。そして3次は、松下塾長との面接となっていた。

 実は私のゼミの教官であった高坂正尭教授には、何も相談していなかった。高坂先生は政経塾の理事でもあったが、「実は」と話したのは2次合格の後だった。てっきり喜んでもらえると思っていた私の予想に反して、高坂先生は「君、あそこは海のものとも山のものとも分からへんで。卒業しても何の資格もあらへん。どうしても行きたいんやったら、在塾中に司法試験か税理士か、何か国家試験の勉強してとっといた方がええな」と言われるではないか!頭がカーッとなっていた私に、まさに「現実」という冷水を塾の理事さんから浴びるとは思わなかった。

 さらに父はもっと反対した。「あれは、金持ちの隠居仕事。そんなのに付き合ったら人生を棒に振る」と。

 9月に松下塾長との面接があった。当時80歳くらいだったと思う。面接室には、松下塾長を真ん中に、丹羽副塾長、江口PHP専務などがずらっと座っていた。質問は主に丹羽副塾長や江口専務がされ、松下さんはただじぃっと見ているだけ。「眼光の鋭い人だな」というのが、初めて会った印象だった。

 3、40分位して、「それでは、塾長何か質問ありますか」と促され、松下塾長が口を開いた。

 「君、酒はどれほど飲むんか?」

(えっ??) 唖然。政経塾の3次面接の松下塾長の最初の質問である。

 「運動部におりましたので、かなりやりますし好きです」

 「どんな酒や? 歌でも歌うんか?」

(えっ??)

 「まあ、よく歌いますけど。好きですから」

 「そうか。ところで君、彼女おるんか?」

(はぁあ?? な、な、なんだこの質問。俺は枠外なのかも? も、いいや。嘘つくこともないしな)

 「はい。います」
 
 「そうか。君な、ここはな、5年制の全寮生活や。我慢できるか?」

(我慢??? なにを? わかんないけどいいやっ)

 「できますっ」

 これだけだった。終わった瞬間「こりゃ、相手にされてないかも」と、がっかりして面接会場をあとにした。しかし初めての松下さんは、オーラ溢れる存在感のある立派な人だった。



写真:松下幸之助さんと