都議選の告示まであと2週間と迫ったある日、松下幸之助塾長の秘書さんから連絡があり、「塾長が『激励したい』と言っている」ということで、芝の松下電器まで行った。「なんだろう」と恐る恐る相談役室に入ると、松下さんが座っていた。
「君、ようがんばってるな。もう少しや」
とにこやかに一言話した後、一枚の小さな長方形の紙を出して
「これな、ささやかながらワシからの援助や」と。
「はい??」その紙に目を落とすと、小切手だった。額面を見ると、5のあとに0がいくつも並んでいる。
「五百万円ですか?!」と、今まで見たこともない大金の小切手を震える両手で持ったまま、「こんな大金いただいてよろしいのですか」と尋ねた。
そこで松下さんは、私の目をじっと見てこう言った。
「いや、あげるのとは違う。貸しや」
私は一瞬言葉に詰まってしまって、
「えっ?それでは、返さなければいけないのですか?」と聞くと、
「そうや」と松下さん。
(そんな、こんな大金返せるわけないのに。そんな殺生な)と思いながらも、「ありがとうございます」と深々と頭を下げると、松下さんはこう言った。
「毎年3月の10年返済でええわ」
「は、はい」と私。
そして、松下さんはさらに、
「けどな、それじゃ貧乏な君にはかわいそうやから、利子分は寄付したるわ」と。
「え?! 塾長、利子もつくんですか?!」
「そりゃそうや。でもその分は君への寄付や」
当時27歳の私の甘さには、今思うと恥ずかしい限りだが、それにしても松下さんは、その時点では発生していない利子だけを『寄付』してくれたのだった。
松下幸之助塾長講義