2月18日、杉並区は住基ネットに関する訴訟を、国と都を相手に提起する方針を発表し、20日からの区議会に議案を提出しました(自治体が訴訟を起こすには議会の議決が必要なのです)。その内容は、簡単にいえば「杉並区にも横浜市と同様に、『横浜方式』による段階的参加方式を認めよ」というものです。
確かに、「政治家」としての私の住基ネットに対する考え方は、従来から否定的ですし、その考えは今でも変わっていません。住基ネットはサービスの割に合わない高コストの仕組みで、税金の無駄遣いと考えていますし、仮にそれでもやりたいと国が言うならば、便利だと思う人が参加して11桁の国民番号を受け取る仕組み、つまり「選択制」にすべきです。赤ちゃんからお年寄りまで、全ての国民に強制的に番号をつける必要はないと考えます。国民への強制番号制は、導入当初の意図が仮に別のところにあっても、いずれその番号ごとに全ての国民情報が集められていく基盤を提供することになり、それは結果的に、自由の大切な基盤である国民のプライバシーを侵害する危険性を飛躍的に高め、また何よりも外国やテロリストにその情報が流れれば、日本の安全保障の上にも深刻な問題になりかねないと考えています。ま、住基ネットそのものの議論は、またゆっくりしたいと思います。
しかし、区長という「行政官」としての私の行動は、私の個人の考え方がどうであろうが、現に存在する住基法に従うのは当然です。そして、住基法は国民全員の参加を強制しています。一方この法律は、自治体の首長に住民情報の適切な管理責任も課しているのです。長野県の侵入実験の結果をはじめ、まだまだ住基ネットの安全性に疑問符がつけられている現状にあって、私は強制参加義務と住民情報の適切管理義務という二つの法律上の義務を、区長という「行政官」としてどう誠実に果たすかを悩み抜いてきました。
「法の許される範囲でどうするか?」
こう悩んでいるさなか、昨年の4月上旬に、国(総務省)、神奈川県、横浜市、そして地方自治情報センター(住基ネットの要となる機関)の4者で、ある合意がなされたのです。それが「横浜方式」と呼ばれるものです。それは、総務省の文書の言葉をそのまま借りれば、「今回の合意は、横浜市が速やかに住基ネットに全員参加することを前提に、その具体的手順についての取り決め」であり、その具体的手順とは、4者の合意文書によれば、全員参加に至るまでの段階的参加を認め、まずは住基ネットへの参加希望者の情報を送り、85万人もおよぶ不参加希望者の情報は、「住基ネットの安全性を総合的に確認し、速やかに市民全員の本人確認情報の更新データの送信を完了する」とされています。つまり、全員参加を前提としながらも、まずは参加希望者の情報を送り、その後「総合的」に安全確認ができたら速やかに残りの市民の情報を送るというものです。そして、今現在でも横浜市はこの合意に基づき、不参加希望者の情報を送っていないのです。
住基法の適用で、この「横浜方式」による参加方式を認めたことは、私は総務省の立場としては、一つの良識的な判断であったと評価しています。そこで私は「住基法で横浜市にこの方式が認められるならば、杉並区でも当然認められる」と考え、私は杉並区も横浜方式による参加方針を昨年6月に決定し、同月の議会にそのための予算を提案し、区民の代表である議会でも「横浜方式」の予算が議決されたのです。そして杉並区は、横浜の行った方法と全く同じ方法で「横浜方式」による参加準備を進めつつ、国や都に対して、横浜と交わした「一字一句違わない」合意文書を杉並区とも締結するよう求めてきました。
しかし、昨年の6月から今日まで、総務省には13回協議を求めましたが、応じたのは5回だけ、また都とは12回協議を行いましたが、結局「杉並区に『横浜方式』は認めない」の一点張りでした。さらに「『横浜方式』も違法だ」とも主張し始めたのです。
しかし「『横浜方式』も違法」なら、昨年の合意は何だったのか? 総務省は違法な行為にお墨付きを与えたことになるのではないか。そもそも国が違法行為を承認することがあるのか。その場合の責任は?
「去年の5月の個人情報保護関連法の成立で、『横浜方式』も違法状態になった」とも総務省は新聞で言っているようだが、法の成立以前からも「法が成立していなくても、政府が法案を提出した段階で」政府は住基法の義務を果たしているので、「不参加は違法」と言い続けてきたこととの、主張の整合性はどうなのか?
仮に百歩譲って、「現在の」横浜市が違法状態にあるなら、国は地方自治法に基づいた「是正の要求」を横浜市に行うべきなのに、それをいまだに行わないのはなぜか。それを行わないでいくら口頭や行政指導で「違法だ」と言ってみても、横浜市と総務省が交わした合意書の法的拘束力の方が優先されると、一般的に見えて当然ではないのか。とにかく朝令暮改のような国の主張には、無理があると言わざるを得ないと思うのです。
私が最も問題だと思うことは、同じ法律なのに明確な基準もなく「横浜に認め、杉並に認めない」という、憲法の定める『法の下の平等』に反する恣意的な法執行を、国自らが行っているという点なのです。法治国家とは、法に従っていけば、国家権力から不当な扱いを受けないことで、個人の自由を守ろうとする理念であることは言を待ちませんが、法が役人の『さじ加減で』不平等に適用されるとすれば、それはまさに法治国家の原理を大きく踏み外す行為と言わざるを得ないものです。
平成12年の地方自治法の改正で、国と地方自治体は「対等の関係」とされました。それまでは「上下の関係」が残っていましたので、国と自治体の法解釈が異なる場合は、自然に国の解釈が優先されました。しかし、今は「対等の関係」なのです。何も対立ばかりする必要もありませんが、意見の違いは当然出てきます。その場合、何度協議しても合意できない時は、最終的に司法などの第3者機関に法解釈の判断を仰ぎ、決着を付けることは、早期解決のための一つの有効な手段であり、また私は多くの区民や国民にとっても分かりやすいことであると考えます。
今回の提訴は、住基法の解釈の違いを埋めるためのものではありますが、国と自治体の新しい「対等の関係」を確立し、役人による恣意的な法運用をなくして『法の下の平等』を徹底させるためにも、また事態をなるべく早期に打開するためにも重要だと確信しています。
