山田宏 Japanist
私が目指す、日本の姿

日本を知ることで、日本人としての誇りを醸成する。

志誌『Japanist』25号(2015年4月25日発売)に掲載された、山田宏の連載インタビュー Vol.3。

Japanist Interview

いまある形を変えるという勇気

自由な立場だからこそ、できることを

髙久 多美男(Japanist編集長 以下:高久)

 昨年十二月の総選挙で、山田さんはじめ、次世代の党は惨敗を喫してしまいました。結党後、約四ヶ月という最悪のタイミングで行われた選挙ですが、山田さんの落選を惜しむ声はとても多いと思います。本論に入る前に、落選という事実をどうとらえ、今後、どのような活動をされていくのか、お聞かせいただけますか。

山田 宏(以下:山田)

 国会議員という立場で、この国を立て直していきたいという思いがありますので、そういう意味では残念です。一般的には落選を捲土重来を期しての雌伏の時ととらえるのだと思います。しかし、私は必ずしもそれだけとは思っていません。落選も意味があるのだろうと思っているのです。つまり、議員という立場ではできないことをする期間だととらえています。
 国会議員の時は追い立てられるような毎日をおくっていました。議会内での活動にくわえて党役員としての業務もあり、一日があっという間に終わってしまいます。そのため、どうしても本来目指すべき大きな目標を見失いがちになってしまいます。その点、いまはじっくりと本来やるべきことに取り組める時期だと思っています。私は与党の保守層と野党のリーダー層との間にしっかりした人間関係ができていますので、党利党略とは無関係に、自由な立場で自分がやりたいことができる、つまり、フリーハンドで動けるポジションにあるということは大きなメリットだととらえています。

髙久

 「ものは考えよう」といいますが、バッジがはずれたからこそできることもたくさんあるのですね。具体的に、どのようなことをなさろうとお考えですか。

山田

 ひとつには、本誌の前号でご紹介されていた田口佳史先生が推進されている人格教養教育プロジェクトについて、具体的な法律をつくるための仕事です。そのためにはそのプロジェクトの骨子や綱領をつくっていく必要がありますが、私が触媒となってそれらをまとめ、議員連盟に提案したいと思っています。
 二つ目は、歴史問題をはじめ、現在のわが国の社会科学の分野での対外情報発信力がきわめて脆弱ですので、それを高めたいということです。中国や韓国は、真偽おりまぜて、それこそシャワーのようにさまざまな情報を海外へ発信していますが、日本はそういう活動をほとんどしてきませんでした。日本の優れた論調を毎月英訳し、それをパッケージにして海外へ発信する事業体を設立するために尽力したいと思っています。
 そして三つ目は、若いリーダーの養成です。いま、感じていることは、中央の改革ではなにも変わらない、明治維新のように、地方から変えていく必要があるということです。しかし、地方からそのような動きが出ていないというのは、有為の人材がリーダーになっていないということでもあります。
 いま、さかんに地方創成と言われていますが、実際は東京一極集中が進むばかりです。地方創成を実現させるためには、志のある若い世代がそれぞれの地域のリーダーとなり、それぞれの地域特性を生かした創意工夫によって地方を変えていく以外、道はありません。つまり、地方からのろしをあげられるよう、「首長限定の養成塾」を開講したいと考えています。幸い、私のまわりには、首長として実績をあげた人が何人もいますので、彼らにも力を借りながら、首長としての立脚点や考え方、自治体運営のコツなどを伝授し、数年以内に数人の首長を誕生させたいと思っています。 

髙久

 「地方から日本を変える」というキャッチフレーズはたびたび聞くのですが、山田さんの杉並区改革のように、素晴らしい実績を残しても国政に反映されていないのではないかと映ります。日本は外圧でしか変われないのでしょうか。

山田

 たしかに明治維新は外圧という強烈なエネルギーによって衝き動かされた革命ですし、唐という巨大な国に対して挑んだ白村江の戦いで敗れた天武持統朝も国内の改革を進めました。いずれにしても、日本は外圧によって変わってきたとも言えますが、外圧に呼応する形で国内の改革を断行してきたという事実もあります。つまり、危機感が生まれれば、日本人は自ら変革できる民族だと思います。橋下徹さんに刺激されて、国が動いたという事実もありますし、私は地方の改革が国の改革に波及する可能性は大いにあると思っています。

いまこそ問われる「自立」

髙久

 国際情勢にテーマを変えたいと思います。戦後、長く続いた東西冷戦構造が崩壊し、米国というひとつの超大国によるヘゲモニーから中国の台頭による新たな摩擦、そして民族間の紛争やテロなど、従来の枠組みでは対処できない問題が噴出しています。そういう状況下にあって、日本はどう対応すべきとお考えですか。

山田

 これから数年間は、国際社会の転換期といえるでしょう。米国の上下両院はねじれ現象が続き、オバマ政権は他国に口は出すものの腰は引けています。「イスラム国」やロシア、中国などが虎視眈々と勢力拡大を図っています。ひとつはっきり言えることは、米国の国力が相対的に低下しており、米国の傘の下で自国の安全保障を保持するというわが国の基本スタンスは終わりを告げたということです。米国は中国の挑戦に対し、妥協するケースがでてくるでしょうし、そうなれば、わが国は自力で安全保障を維持しなければなりません。まさに、われわれが日本創新党時代から言い続けている「自立」というキーワードがますます重要になってくるということです。

髙久

 山田さんたちが前々からおっしゃっている「国家の自立」ですね。

山田

 そうです。国家の自立、地方の自立、個人の自立です。

髙久

 それまでなにものかに依存してきた人たちにとって、「自立」という二文字はきわめて恐ろしいものに映るのでしょうね。

山田

 しかし、個人も地方も国も、もはや自立することを抜きにして生き残ることはできないと考えるべきです。

日本に足りない、情報インテリジェンス

髙久

 今年の一月、「イスラム国」に拉致された二人の日本人が惨殺されました。この悲惨な事件を日本はどう生かすべきとお考えですか。

山田

 表面的なコメントはメディアにまかせるとして、日本はあの出来事を教訓にして、真剣に学ばなければなりません。あの時の日本政府の対応はけっして間違ってはいませんでしたが、日本の弱点が浮き彫りになったことも事実です。

髙久

 といいますと?

山田

 情報インテリジェンスの問題です。あの事件の時、日本はどういうふうに情報を集めていいかわからず、限られた時間のなかでさまざまなルートへアプローチしました。しかし、それぞれが勝手なことを言うわけですし、集まった情報の評価をする専門家もいません。そうなると外部からの情報しか頼りにならないわけですが、いくら同盟国とはいえ、自国の国益を考慮しながら情報提供をするわけですから、すべてが有効な情報であるとは限りません。

髙久

 インテリジェンスの基本は、情報の収集・分析・戦略・発信の四つが一貫性をもってなされなければいけないということですが、日本の場合は警察や各省などからの情報を一元的に活用することができないと言われていますね。

山田

 現状のままでは、なにか重大事件が起こっても、官邸は祈るだけか、他国にお願いすることしかできません。それでは、これから多発するであろう民族紛争や宗教紛争、あるいはテロが起こった時に日本人を守ることができません。私は日本独自の情報機関をつくるために、プロパーの専門家を養成する必要があると思います。それにくわえ、海外のネットワーク体制も構築しなければなりません。さまざまな国で日本に協力する人を育て、エージェントをつくっていくのです。そういう人たちへの物心両面の支援をしていくのです。

髙久

 たしかに、歴史を見ても情報インテリジェンスの重要性はわかりますね。

日本型州制度をどう展開するか

髙久

 前号で日本を根本的に建て直すには、明治以降ずっと続いてきた統治機構を変えるべきだという「日本型州制度」について詳しく語っていただきました。中央集権体制の出先機関ともいえる都道府県を廃し、全国を経営に適した規模の州に分け、それぞれの地域の特性に合った自治体経営をする以外、ないとおっしゃいました。創意工夫を促し、現在のとほうもない無駄を排除するには、統治機構を変えることが最善の道だということはわかりますが、州制度に対する国民の関心は高まっていません。そのことについて、山田さんはどのように訴えていくつもりですか。

山田

 たしかに今はそのような状況ですが、これだけの無駄を続けながら税金が上がっていくわけですから、もっと効率的で税金が安くなる方法はないものかと、必然的に国民の意識が高まっていくものと思っています。その時までコツコツと発信し続けます。それを続けながら、具体的にどうやって統治機構を変えるかを議論する必要があると思います。国民から注目を浴び、いざ実行に移していこうといった時に、なにも準備されていなかったとしたら先へ進めませんから。

髙久

 地域によっては、州制度へ移行したいという気運が高いところもありますね。

山田

 私はまず、北海道と九州を先行して実施するのもいいのではないかと思っています。北海道はそもそもひとつの単位ですし、九州の七県もひとつにまとめて運営をする。特に九州は九州電力を中心として経済界が一体となって「九州州」を望んでいます。ですので、先ほどのお話とも重なりますが、州制度に意欲のある北海道の知事を誕生させるというのもひとつの方法だと思います。北海道と九州がモデルとなっていい結果を出せば、必ずや全国的に波及し、気運が高まっていくと思います。

髙久

 企業の実態を見ればわかりますが、経営努力をしているところとそうでないところは明白に差が出てきます。いつまでも中央に依存するのは、経営努力を怠っている企業を税金で存続させる姿と似ていますね。近年、他国で統治機構を抜本的に変えたケースというのはあるのでしょうか。

山田

 例えばイギリスですと、大ロンドン市を大きくしたり小さくしたり、その時の情勢に合わせて変えています。日本はなんでもそうですが、一度形ができるとそれを変えたがらないという傾向があります。行き詰まっているのですから、いろいろ試してみればいいんですよ。

髙久

 たしかに、その点は日本人の欠点ですね。憲法もそうです。明治憲法の欠点を放置したことが軍部の増長につながったことは明白ですし、一度決まったものでも時勢に合っていなければ変えていくという気概が必要だと思います。

山田

 いろいろなことにチャレンジすれば、結果が出ます。それを怖れていたら、なにも変わりませんよ。

髙久

 山田さんのような大きな構想力と実行力をもった政治家がたくさん現れてほしいと思います。本日はありがとうございました。

 

●森 日出夫:撮影

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