山田宏 Japanist
私が目指す、日本の姿

日本を知ることで、日本人としての誇りを醸成する。

志誌『Japanist』28号(2016年1月25日発売)に掲載された、山田宏の連載インタビュー Vol.6。

Japanist Interview

人口減少は日本の最大の危機

負のスパイラルの元凶は人口減少

髙久 多美男(Japanist編集長 以下:高久)

 山田さんは日本の人口減少を危惧されていますが、その問題点を詳しくお聞かせください。

山田 宏(以下:山田)

 これからの日本を襲うすべての問題に、この人口減少が関わってきます。日本が直面する最大の問題と言っていいと思います。今、わが国の人口は毎年約六〇万人減っています。ほぼ鳥取県の人口と同じくらい減っているわけです。労働力、購買力、消費力もそれに合わせて減っているということです。まず労働力が減ると、生産に影響を及ぼしますが、いったいそれをどうやって補うのかという問題が生じます。二つ目に、消費が減れば、生産量も減らさざるをえなくなります。それによって経済のマイナス・スパイラルに陥ります。例えば、従業員が一〇〇人いた会社が七〇人、五〇人と減らし、五つあった課を二つに減らすというような状況になっていきます。生産が減るということは、投資も減るということです。この負の循環に陥れば、税収も減ります。すると高齢社会を支えられなくなるので、借金を増やすか税金を上げる以外になくなる。その結果、さらに消費が減る。

髙久

 たしかに、負の連鎖でしょうね。

山田

 今、消費財を売っている会社はおおまかに三十年後を考えて投資しています。つまり、三十年後までに回収するという意図のもとに投資がなされているわけです。では、次の三十年はどうか? 今後、経済がマイナス・スパイラルに陥ると予測すれば、積極的に投資しようとは思わないでしょう。つまり、ますます経済は縮小せざるをえなくなるのです。それらの元凶が人口減少なんです。
 今、海外の資産まで含めれば、国民の金融資産は一七〇〇兆円くらいあると言われていますが、国の借金が一三〇〇兆円を越したあたりから、世界の日本を見る目が「ん?」と変わってくるはずです。今は国民が国債を買っていますが、外債が増えれば、デフォルトつまり国家破綻の危険性が高まるということです。つまり、人口減少が続けば、みんなが貧乏になるということですよ。そうなれば、今まで当たり前のように行われていた行政サービスが劣化します。医療費の自己負担の割合も増えるでしょう。収入が減って、税金が上がって、自己負担が増えるわけですから、生活はそうとう困窮します。

髙久

 では、年金はどうなんでしょう。

山田

 現在の日本の年金制度ですと、勤めていた時の最終年度の三分の一くらいしかもらえません(年間で)。欧米はだいたい半分くらいですね。それがさらに減らされるわけですから、もう踏んだり蹴ったりの状況です。

髙久

 当然、軍備費も減ることになるでしょう。

山田

 大きく減らさざるをえません。したがって、他国、特に中国からの圧力に耐えられなくなる。尖閣諸島も守れなくなり、シーレーンにも大きな影響を及ぼす。信じられないような事態が発生する可能性もあります。

人口減少に歯止めをかける政治家の役割

髙久

 人口減少がさまざまな負のスパイラルを引き起こすことはわかりました。では、具体的にどうやってそれを阻止するのでしょうか。

山田

 少子化対策というと、すぐに育休や保育園を増やしましょうという話になってしまいます。しかし、一九九五年にエンゼルプランが策定されて、女性が働きやすい職場を目指し、保育園と育休を増やすための施策が実施されました。女性が働きやすい環境をつくって少子化に歯止めをかけようと、二十年間、相当な予算をつぎ込みました。ところが、その間、出生率はほとんど伸びていません。人口を維持するためには最低二・〇七の出生率が必要なのですが、日本の出生率は一・四三。ヨーロッパはほぼ一・七から一・八、フランスは二を超えています。

髙久

 保育園や育休を増やすことが人口減少に歯止めをかける根本的な対策にはならないということですね。

山田

 そうです。そもそもこのプランは、共働き家庭が子供を育てやすくするために考えられたものですが、実際はどんなに保育園を増やしても、共働き家庭は二割前後にとどまっています。就職した後、出産などを機に会社を辞め、子育てが一段落ついたところでパートに出るという女性が多いからです。全体の二割しか共働き家庭がないのですから、保育園や育休を増やすだけでは効果が出ないということです。残り八割の、パートや専業主婦の家庭に対して支援をしていかなければなりません。総務省が毎年行っているアンケートによれば、三人くらい子供が欲しいという家庭がいちばん多いのですが、実際は経済的な理由で一人か二人にとどまっています。産みたいのに産まないという家庭が多いわけです。

髙久

 今は昔と違って、子育ての費用がかかりますね。

山田

 公立学校で大学まで出すと、一人およそ四千万円くらいかかると言われています。塾などにもお金をかければ六千万円くらいかかります。そう考えると、何人も産むのは無理ですよ。

髙久

 子供が減っているのは、他にも理由がありそうですが。

山田

 そうです。二つ目の理由は、女性の晩婚化、あるいは結婚しない女性が増えたことでしょう。結婚したいのにできない、あるいは結婚したくないという女性が増えてきました。また結婚したとしても三十代半ばくらいだと、子供を三人産むのはきついでしょうね。では、なぜ、結婚しないのか。原因のひとつは日本の産業構造の変化にあると思います。つまり、若者の非正規労働が増えたことです。収入が少ない、雇用が安定しないなどの理由で、なかなか結婚に踏み切れない。さらに、育休という制度はあっても、それを取得できるのは正社員であって、非正規の人はなかなかとれないのが実情です。なぜ、非正規雇用が増えたかといえば、製造業主体の産業構造から、サービス業などの第三次産業が主体の産業構造に変わったからです。

髙久

 最近、「福井モデル」という言葉を聞きます。一世帯当たりの収入が全国で一番高いらしいのです。これは、家族の多くが働いているからこそだと思います。

山田

 三世帯家族など、家族の人数が多ければそれも可能だと思いますが、やはり地方と都市部にはそれぞれの問題があると思います。都市部の核家族で共働きをするのはいろいろな問題があります。保育園が不足しているのは東京だけです。地方の問題は一にも二にも若者の雇用です。

大胆な経済的支援を実施せよ

山田

 そういう状況のもとで、出生率を上げるには、どうしても経済的支援が欠かせません。私は、たとえば教育費や医療費や保育費を基本的に無料、一人目、二人目には百万円、三人目ができたら三百万円の出産祝い金を支給するといったような大胆な経済的支援が不可欠だと思っています。

髙久

 島根県の海士町がそれをやっていますね。移住者に対する手厚い政策によって、若い世代が増え、それにつれて出生率も上がっているようです。

山田

 そういうことを国レベルでやらないとダメです。それから、未婚者同士で妊娠すると堕胎するケースが非常に多いのですが、そういう場合も「大丈夫、国が面倒をみるから」という制度にしなければいけないと思います。

髙久

 フランスがそうですよね。未婚で子供をもつ人が多いです。パリを歩くと、ベビー服の専門店がとても目につきます。

山田

 未婚者が子供をもつというような話になると眉をしかめる人がいますが、そういう風潮になったのは昭和に入ってからですよ。日本は工業国を目指すようになってから同じような労働者が必要となり、学校→就職→結婚→出産→子育てという順番が固定化してしまいました。本来は、人それぞれでいいんですよ。学業の途中で結婚してもいいし、はじめに働いた後、勉強をしてもいい。いろいろあっていいと思います。要するに、早く結婚する人を褒めるような社会にしていく必要があります。それを促すためにもお金がかかるわけですが、今、日本は子育て支援など家庭の維持にかかる予算はGDPのわずか〇・九パーセントです。フランスやイギリスなど出生率を回復させた国は二〜三パーセントも使っています。日本はお年寄りに予算をかけ過ぎています。お年寄りを粗末にしていいと言っているわけではないですよ。バランスの問題です。少子化問題は日本の最大の危機なんだ、これを解決しないと日本は沈没するんだという認識をもって、子供をもちたいという若い世代を支援しないと、日本の将来は真っ暗ですよ。

髙久

 まして、移民によって労働力を確保することは日本に合いませんね。

山田

 ヨーロッパの国々を見てもわかるように、旧来の社会があるのに大量の移民を受け入れた国はさまざまな問題を抱えています。みんな失敗です。成功しているのは、移民によって国ができたアメリカだけです。最近頻発しているテロ事件を見ても、いかに移民が多くの問題をはらんでいるかわかるでしょう。ただ、ベビーシッターや介護従事者や高度技術者など、特定の職種に関しては限定的に受け入れていく必要があると思います。

髙久

 日本の人口は八千万人くらいがちょうどいいと言う人もいますが。

山田

 人口そのものではなく、その構成が問題なんです。八千万人の半数以上が六十五歳以上ですよ。そんな国、あっという間に消えてなくなりますよ。

髙久

 あまり考えたくない社会構造ですね。

山田

 いちばんの根本的な原因は、安倍首相が希望出生率一・八をあげるまで国が出生率の目標をもってこなかったことです。そういうことを言うと、必ず「産む・産まないは個人の自由だ」と反論する人がいます。しかし、個別の事情に立ち入っているわけではないんです。産みたいと思っているのにさまざまな事情で産めないという人に対して、社会環境を変えて障害を取り除いてあげるということなんですから。結婚したくない人に結婚しろ、産みたくない人に子供を産めと言っているわけではないのです。あちこちに赤ちゃんの泣き声や子供の溌剌とした声が響き渡るような社会をつくっていく、そうすることが日本の将来を明るくすると言いたいのです。そういう認識がなかったら、どんなに育休や保育園を増やしても出生率は上がりませんよ。

髙久

 待ち受けているのは、負のスパイラルに陥った社会ですね。

山田

 それから、縦割り行政も問題です。子育て対策といっても、厚労省や文科省や総務相にそれぞれ部署があり、現在の子育て担当大臣は内閣府から出向しているという形になっています。これでは効果のある政策を実行することはできません。そうではなく、各省の担当部署を集めて「子供省」、あるいは「子育て省」をつくるというくらいまで変えないと、日本はジリ貧になりますよ。

髙久

 結婚や子育てに対するポジティブなイメージをどうやって育んでいくのかということも重要ではないでしょうか。男も女も結婚願望が少ないというのは、結婚して子育てしている周りの人たちを見て、羨ましいと思う人が少ないということもあげられると思います。結婚して子供ができると自由に遊べないし経済的にも大変だ。それなら独身でいた方がいいと。

山田

 子育てはたしかに大変です。でも、大きな喜びも味わえる。赤ちゃんを抱っこしていたら、可愛いと思うし、気持ちが豊かになってきます。今は赤ちゃんをあやした経験がないという若者が多いようですが、たとえば中学校や高校あたりで保育園や託児施設に行って実際に赤ちゃんに触れる体験実習をすると意識がかなり変わります。私は杉並区長時代、そういう授業を促進したのですが、「赤ちゃん可愛い、また来たい」と言う生徒が多かったですよ。要は子供をもつことを肯定的にとらえられる空気を醸成することが最も大事です。

 

●森 日出夫:撮影

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