山田宏 Japanist
私が目指す、日本の姿

日本を知ることで、日本人としての誇りを醸成する。

志誌『Japanist』26号(2015年7月25日発売)に掲載された、山田宏の連載インタビュー Vol.4。

Japanist Interview

食料の輸出国、観光大国を目指せ

食料の輸出国になる

髙久 多美男(Japanist編集長 以下:高久)

 軍事的な安全保障と同様、食料の安全保障もきわめて重要です。今、世界中でさまざまな農産物交渉がありますが、基本的には、「わが国の農産物をあなたの国にたくさん買ってもらいたい」というスタンスだと思います。私はそう圧力をかけられているうちはまだいいのではないかと思います。やがて、大金を積んでも食料を輸入できない日がやってくるかもしれません。〝爆食〞という言葉もありますが、今後、世界の食料事情は急速に逼迫していくのではないかと思います。
 農業及び食料に関し、山田さんはどのようなお考えをおもちですか。

山田 宏(以下:山田)

 アジアの発展途上国などで人口爆発が起きていますから、このままいけば、近い将来、明らかに人口と食料のバランスが崩れます。かといって、これだけ世界中で貿易が行われている以上、もはや江戸時代のような自給自足は不可能ですし、また、わが国はそういう方向を目指すべきではありません。
 日本は食料の自給率が低く、いざ、輸入できなくなれば大変な問題になるのは明らかですが、私は、日本は食料の輸出国になることを目標に掲げるべきではないかと思っています。少なくとも、今後、世界の食料不足が深刻になると懸念されているわけですから、日本が食料を輸出できるようになるということは、世界に貢献することにもつながるわけです。今すぐにというのは難しいですが、十年後、二十年後にこうなるという目標をもてば、それに向かってどういうアプローチが必要かが明らかになります。そういった、演繹的な手法といいますか、目的を定めてロードマップを作成し、着実に実行していくということが大切です。今のように、関係者だけが話し合って改善点を挙げていくという帰納法的な手法では、百年かけても事態は変わらないですよ。

髙久

 日本人は、目標が明確であれば大きな力を発揮する民族だということは歴史が証明しています。まずは大きな目標を掲げることなのでしょうね。

山田

 そうです。今は食料の「量」ばかりが問題にされていますが、日本は「質」の向上にも力を入れるべきではないでしょうか。世界のお金持ちから価値を認めてもらえれば、日本はおのずと食料の輸出国になります。安全・安心で美味しい食べ物であれば、いくらでもお金を出すという人は世界中にいるのですから。そのためにも、肥料や農薬を減らしていく、そして、将来的にはゼロにしていく、あるいは長い時間をかけてじっくりと土壌改良をしていくというような取り組みも必要です。

髙久

 従来、日本列島改造といえば、道路や橋を造るという「土木・建設」的な意味で語られてきましたが、それよりもむしろ、国土を本来あるべき姿に戻し、それによって良質の食べ物を作っていくという発想が必要ですね。

山田

 そうです。人間と自然の関係を再調整していくということは、太古から継がれている神道の根本に照らし合わせてみても理に適っています。気仙沼で牡蠣の養殖を営む畠山重篤さんが森の再生をしたように、あるいは日本本来の植生を考慮して木を植え続ける宮脇昭さんのように、長い時間軸で物事の本質をとらえ、国土を豊潤なものにしていくということが求められていると思います。国土の価値を上げていくことによって、農産物のみならず、工業製品や知的生産物の価値も上げていく。国土が豊かになれば、水もきれいになっていくし、美しい風景になっていきます。それが外国から見て、日本の価値が高まるということです。

髙久

 これまでと反対のことをするのですね。

山田

 これまで日本人も含め、世界中の人たちが自然を破壊してきました。松下幸之助翁は生前、国土の五分の四近くを占める山の三分の一を切り崩して、さらに人工島を沖合に作って、日本の国土面積を倍にしようという国土創生論を唱えたことがありますが、そういう考え方は現代には合いません。それよりも、自然との調和が大切です。つまり、質の上での国土創生が必要なのではないでしょうか。それがやがて「日本ブランド」につながっていきます。日本のブランド価値が高まれば、農産物、工業製品、観光業など、すべてにおいて有利になるはずです。

日本の観光力を上げる

髙久

 ダボス会議を主催するスイスの民間研究機関「世界経済フォーラム」が今年五月、世界各国・地域の旅行客を引きつける実力を比較した二〇一五年版の「旅行・観光競争力ランキング」を発表しました。
 日本は、優れた「おもてなし」が高く評価されるなど初めてベストテン(九位)に入りました。「客の扱い」部門でトップ、従業員の訓練が二位になるなど、日本人の人的資源が高いという証明にもなりましたし、顧客本位のおもてなしを重視する文化が認められたとも言えます。さらに、安全な飲料水や鉄道の安全性などでも高得点をあげました。一方で、燃料費が他より高額であるなど、問題点も浮き彫りになりましたが、総じて日本の観光力は上がっています。

山田

 ありあまるわが国の観光資源を考え合わせると、これまでが少な過ぎたとも言えるでしょうね。一昨年、訪日外国人観光客数が初めて一千万人の大台を突破し、昨年は一三〇〇万人を越えました。今年も過去最高レベルで推移するなど、日本を訪れたいという人は増えていく傾向にあるのだと思います。
 政府は二〇二〇年の東京オリンピック時に、訪日外国人観光客二〇〇〇万人を目標にしていますが、経済的効果だけではなく、日本のありのままの姿を見てもらうことによって日本を理解する人が増えるという効果も期待できます。

髙久

 現在、世界で最も外国人観光客を受け容れている国・フランス(二〇一三年統計で八四七〇万人)は、二〇三〇年までになんと一億人にするという高い目標を掲げています。

山田

 日本もフランス並みにならなければいけませんよね(笑)。それだけの観光資源をもっているんですから。
 ただ、まだまだ日本には課題もあります。私たち日本人が気づかないことをきちんと見つめなおし、改善していく必要があります。例えば、外国でも日本酒のファンが増えていますが、日本酒をワイン感覚で飲むと、すぐに酔ってしまいます。日本酒のアルコール度数は約一七%ですが、ワインは一二%。ワイン感覚で飲める日本酒を造れないものかと言う外国人も少なくないですよ。それから、よく言われるのがラベルです。日本酒のラベルは表も裏もすべて日本語表記なので、それが日本酒なのか焼酎なのかもわからない、と。日本酒を買ったつもりでホテルに戻って空けてみたら、水だったという話も聞きました、ラベルを英語併記にするだけで、ぐーんと日本酒ファンが広がると思います。そういうようなケースは、他の業界にもたくさんあるはずです。それらをひとつひとつ解決していくことによって、私は劇的に日本の評価が高まり、ファンが増えていくと思うんです。

髙久

 昨年、高野山に行きましたが、日本人より外国人の方が多いのではないかと思うくらい、多くの外国人観光客で賑わっていました。大半が白人でしたが、レジャー的な要素が少ない高野山にあえて行きたいと思うような人は、かなり教養もあり、社会的な影響力の強い人たちかも知れません。そういう人たちに日本の文化を知っていただくのは、意義がありますね。

山田

 以前、私は家族で飛騨高山へ行ったことがあるのですが、駅の周辺は外国人ばかりでした。それもリュックサックを背負って……。東京や京都ばかりでなく、日本のいろいろな地域へ足を運んでもらえるようになれば、地方創生にもつながるわけですからね。

髙久

 ただ、残念なことに、観光業においても既得権益が成長を阻害しているケースもありますね。

山田

 富士山の山小屋がまさにそうだと思います。富士山は世界遺産に指定されましたが、もっとさまざまな取り組みができるはずです。しかし、岩盤のような既得権益があって、いっさい手がつけられない。それでは外国からせっかく来てもらっても満足してもらうことはできません。少なくとも、世界遺産に登録されているところについては、集中的に改善していく必要があります。

髙久

 私は山登りが好きで、毎年登っていますが、山小屋はもっと改善できると思います。競合がないので、なにもしなくても人は来るし、食事も衛生面も工夫する必要がないんです。必要以上に山小屋が乱立するのは論外と思いますが、もっと公正な競争ができるような環境にしていかないと、いつまでたっても旧態依然とした状態が続くと思います。

山田

 いずれにしても、戦後の日本を牽引してきた製造業が昔日の勢いを取り戻すことはないと思います。産業構造が変われば、さまざまな取り組みも変わって当然です。どんどん新たな取り組みをしなければいけませんね。

 

●森 日出夫:撮影

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